チャットの活用には、かなり高いレベルのITリテラシーが必要です。「同期」「割り込み」「ノイズ」の問題を理解し、それを解決しなければなりません。そのためには、チャットと様々なITツールを併用しなければなりません。

痛恨の表情を表した顔文字

チャットを漫然と導入すると、

「ずっと張り付いて見ていないといけないから時間が取られてしまう…」
「集中作業してたのにチャットで割り込まれて能率が落ちてしまう……」
「どうでもいいことばかり流れてくるけど、たまに大事なことも流れてくるから、見ないわけにもいかない……」

といった副作用が生じがちです。それぞれ「同期」「割り込み」「ノイズ」の問題なのですが、それぞれ詳しく見ていきましょう。

同期の問題

チャットは「非同期」のコラボレーションに役立つコミュニケーションツールです。まずこの認識が大事。

「非同期型」とは「いつ返事してもいい」という意味です。

逆に「同期型」は「ある時間、相手を拘束する」という意味です。電話やビデオ会議は同期型です。

チャットを活用したければ、「相手の時間を拘束しない」「相手に時間を拘束されない」という前提で利用しなければなりません。つまり、「相手からいつ返事が来てもいい」「相手にいつ返事をしてもいい」という前提をメンバー全員で共有するということです。

「いつでもいい」と言っても、まあ1日1回はアクセスするでしょう。そもそも「チャットで時間を無駄にしている」と悩んでいるくらいなら、「アクセスしなさすぎる」という心配は無用でしょうし、もしそうなったらむしろチャット活用「大成功」でしょう。

問題は、いかにチャットから距離を置き、集中して作業できる時間を確保するか。

割り込みの問題

チャットアプリのリアルタイム通知は「割り込み」です。割り込みは生産性の阻害要因だし、ストレスの原因にもなります。

割り込みが多いと、時間のコントロール権が奪われるので、主体的に時間を使えなくなります。時間の使い方を自分でコントロールしているという感覚が薄れると、人はストレスを感じます。

割り込みを最小化することが、チャット活用のコツです。そのために、チャットアプリのリアルタイム通知をなるべくオフにしましょう。

とはいえ、全ての通知をオフにするのはやりすぎかもしれません。一部の重要な通知はリアルタイムに受け取りたいでしょう。そういう細やかな通知制御ができるチャット・アプリもあります。ダイレクト・メッセージやメンション(気付)、特定のキーワードを含むメッセージなどに限って通知するような設定をすると良いでしょう。

面倒かもしれませんが、チャットにコントロールされるか、あなたがチャットをコントロールするか。これは時間の主導権を確保するために必要な手間です。

また、「おやすみモード」 (Do Not Disturb) を活用して、一時的に通知を遮断することもできます。1

なお、すぐに返信が欲しい連絡なら、電話してもいいわけですね。電話は最強の割り込みツールです。ツールの使い分けについては後ほど論じます。

いずれにせよ、「チャットに割り込み機能を持たせない」ことが重要です。

ノイズの問題

大人数で一つのチャットルームしか用意しないのはダメです。全員参加のチャットルームで発言することは、全員の認知資源を消費することです。とてもコストが高く、無駄の多いコミュニケーションスタイルです。「雑談ルーム」なら別に構いませんが。

個々人にとって、「自分の仕事に関係ない情報」は「ノイズ」です。ノイズの総量を減らすことが、仕事の能率を上げることになります。

個々人にとって「自分に関係ない情報」を減らし、「自分に関係ある情報」の比率を上げなければなりません。そのためには、チームごと/テーマごとのチャットルームを用意し、チャットルームごとのメンバーを適切に・最小限に配置することが有効です。

PCでチャットしている様子を表現したイラスト

以上、チャット活用の原理として「同期」「割り込み」「ノイズ」の問題について論じてきました。次は、チャットを活用するために併用すべきツールを紹介します。

なんでもチャットで済まそうとしてはならない

「これからのコミュニケーションはチャットに一元化する」というと、一見「いい感じ」ですね。「今後はチャットだけ見てればいいんだ」と思えるから。

人々は「これひとつで済む」というキャッチコピーが、なぜか好きみたい。「全部入り」みたいな。しかし、そのことに実質的な意味はありません。

すべてのコミュニケーションをチャットで済ませようとすると、様々な問題が生じます。ツールは適材適所で使い分けなければ、ツールに振り回されるだけです。

チャットを活用するためには、様々なツールを併用する必要があります。例えば、メール、メッセンジャー、タスク管理システム、文書共有システム、ビデオ会議システムなど。

もちろん、それら全部を必ず導入しなければならないというわけではありません。現実に遭遇したチャットの問題に対して、どのようなツールを併用することが解決になるか。

個々のツールの実質的な意味を考えながら使い分けることが、チャット活用のコツです:

メール

「要返信」のメッセージを送るなら、メールも検討しましょう。

メールアプリの「受信箱」「未読・既読フラグ」はメッセージングの確実性を上げてくれます。チャットで起こりがちな「そのメッセージには気づかなかった」「読んでいたけど返信し忘れた」というミスを減らしてくれます。

受信箱は「タスクリスト」として機能するわけです。

メッセンジャー

「即レス希望」なら電話やメッセンジャーで連絡しましょう。メッセンジャーは基本的にリアルタイムな通知による割り込みを前提としたツールです。

例:Facebook Messenger、Skype、SMS

タスク管理システム

作業を依頼するなら、タスク共同管理システムを検討しましょう。個人用のタスク管理システムではなくて、複数人でコラボレーションするためのタスク管理システムです。

タスク管理システムは「誰が誰にいつタスクを依頼したか」「そのタスクの進捗はどうか、完了したか」を記録し、共有可能にします。これをチャットだけでやろうとするのは不毛です。

例:Trello、Todoist、Backlog、Zira

文書共有システム

あとから参照されるような情報は、文書化して共有しましょう。

チャットのログは流れ去ってしまいます。検索機能も万能ではありません。そもそも人は存在を忘れた文書を検索しようとはしません。

チャットには「文書性」が欠けています。

例:Google Drive、Office 365、Dropbox

ビデオ会議システム

チャットは集中的な議論に向いていません。

チャットに張り付いて10分以上議論するくらいなら、ビデオ会議で10分話しましょう。そのほうがはるかに効率の良い時間の使い方です。

もしチャットで「相手の返信を待っている状態」の自分に気づいたら、「いまから数分お話ししませんか?」と提案するようにしましょう。

例:Facebook Messenger (Video Calling)、ChatWork Live、Skype、Zoom

なお、チャット中の相手に「ビデオ会議に移りませんか」と提案するわけだから、普通は実現しますよね。「他の参加者と日程調整しなければ」「いますぐには始められない」という話にはならないはずです。

もし情報共有のためだけに会議参加者を増やし、日程調整の難易度を上げるようとするなら、その慣行が無駄なのでやめましょう。情報共有なら会議後に文書ですればいいのです。

能率を上げるために、同期型コミュニケーションの人数も減らしましょう。また、いつでもビデオ会議をすぐ開始できるよう、チャット導入時にビデオ会議のセットアップも済ませておきましょう。

職場で座禅を組んで浮遊している女性のイラスト

結論

チャットの活用には、かなり高いレベルのITリテラシーが必要です。「同期」「割り込み」「ノイズ」の問題を理解し、それを解決しなければなりません。そのためには、チャットと様々なITツールを併用しなければなりません。

ぶっちゃけ人類には早すぎたのかもしれん……

  1. この機能は「おやすみモード」と翻訳されますが、ミスリーディングです。英語の ‘Do Not Disturb’ は「邪魔しないで」という意味です。よくホテルのドアに掲示するサインですね。部屋にいるけど、清掃員の人に入ってきてほしくないときなどに使うアレです。別に睡眠時専用の機能ではありません。仕事中に活用しましょう。