アメリカン・ヒーローと司法の適正手続 日本の警察・検察を疑いの目で監視すべき理由

on 2013-08-15 (4 years ago) by 石橋秀仁

日米の「ヒーロー」のあり方を比較したこのフレーズが、笑いのツボに入りました:

こういうのってお国柄がでるよね。

例えばアメコミヒーローは意外なほど法律を重視していて、バットマンやスパイダーマンなんかは基本的に悪人を警察に突き出して司法の手に判断をゆだねるんだけど、

日本のヒーローはほとんどの場合犯罪者を自分で裁く、すなわち私刑を行うんだよね。

は? なに? アーンパンチ? おまえそれ正義の名を借りたただの暴力だろ。傷害罪で訴えられたら負けるから。

バットマンは私刑の執行を控え、司法に裁きをゆだねます。このような「節度」は、まさしく「お国柄」だと思えます。デュー・プロセス・オブ・ロー(法に基づく適正手続)を重んじる「近代国家」アメリカの国民精神に通じます。1

デュー・プロセス・オブ・ローが重んじられる理由

警察・検察はデュー・プロセス・オブ・ローの原則を守らなければなりません。刑事訴訟で被告が有罪になるためには、法に基づく適正な手続きが必要とされています。適法でない捜査や取り調べから得た証拠は、審理において有効な証拠とは認められません。

なぜデュー・プロセス・オブ・ローの原則が導入されたのでしょうか。一見、「悪人に優しい」ようにも思える原則です。この原則が必要な理由は、世界史を振り返ることから理解できます。

人類は「国家による人権の蹂躙」という悲劇を、繰り返し経験してきました。そのような悲劇を繰り返さないために、憲法に「法の支配」の理念を書き込んだのです。「法の支配」とは「専断的な国家権力の支配を排し、権力を法で拘束するという英米法系の基本的原理」のことです。

刑罰は「国家権力による人権の制限」ですから、「国家による人権の蹂躙」と紙一重です。そこで、人権を守るためにデュー・プロセス・オブ・ロー(法に基づく適正な手続き)に従わなければ司法権力を発動できないようにしたのです。

このようにして人類は「公権力に枷(拘束)をはめる」という叡智を獲得しました。より具体的に言えば「法の支配」や「デュー・プロセス・オブ・ロー」といった原則を憲法に書き込むことにしたのです。

このような「公権力に(憲法によって)枷をはめる」という考え方は「立憲主義」とも呼ばれます。近代憲法の根底にある理念です。

[余談ですが、自民党憲法改正草案は、ヤバいです2

ダーティハリーと私刑

ところで、バットマンが「法を重んじる私人」であるならば、「法を軽んじる警察官」がダーティハリーです。

ハリーは捕らえた犯人にミランダ警告3を行わないまま自白へと追い込みます。その自白は当然ながら刑事訴訟において証拠として採用されません。犯人は放免されることになります。ハリーはこのような司法制度に嫌気がさしています。

ハリーの行き過ぎた正義感は、デュー・プロセス・オブ・ローの原則を破らせます。ハリーは違法な「私刑」を執行し、その当然の報いとして警察官の資格を失うのです。

ハリーが警察バッジを投げ捨てるところで映画は終わります。その後のハリーの運命はどうなるでしょうか。おそらくは検察によって起訴され有罪判決を受けて刑務所に入るか、またはそれを逃れるための逃亡生活に身をやつすことになることでしょう。

バットマンもダーティハリーも「ダーク・ヒーロー」ですが、そのあり方は対照的です。

日本の司法のデュー・プロセス・オブ・ロー

翻って日本では「私刑」を行使するヒーローが素直に受け入れられています。冒頭の引用のように「私刑はけしからん」と言う人はほとんどいません。そして、多くの日本人はデュー・プロセス・オブ・ローの重要性に気付いていないようにも思えます。

もっと多くの国民が「権力の監視」に目覚めてもらいたいと思います。

最近のパソコン遠隔操作事件では「警察のやり方は、何かヤバい」と思った人も多いのではないでしょうか。また、検察による証拠改ざんが明るみに出た大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件も記憶に新しいのではないでしょうか。

ほかにも数々の有名事件に、おかしな点があります。ロッキード事件、、陸山会事件などについて調べてみると、「デュー・プロセス・オブ・ロー」「法の支配」「法の下の平等」「立憲主義」といった観点からの疑問が生じます。

2013年12月19日追記:東京の盗撮事件で無罪「捜査員が調書創作」二審も違法認めるといった事件もあります。身近な問題だと思ってください。

ぜひこの機会に日本の司法制度の問題点に関心を持ってください:

取り調べの可視化
日本では、被疑者への取り調べが、可視化されていません。取調室は密室です。拷問のような自白強要が行われ、その自白によって被告が有罪にされる可能性もあります。録画などの手段で、取り調べを可視化する必要があります。
代用刑事施設(代用監獄)
起訴前の被疑者が、警察の留置場に20日間も拘留される可能性があります。勤め人なら約3週間の無断欠勤になりますので、職場にバレる恐れが高まります。その結果、早期解放を希望する被疑者は不本意な(しばしば事実に反する)自白をします。つまり、冤罪の温床です。これは国連拷問禁止条約委員会から問題視されています。4
起訴便宜主義
検察官は起訴を猶予することができます。言い換えると、検察官には、起訴するかしないかを決定する裁量が与えられています。起訴便宜主義の結果が「第一審有罪率99.98%5」という異常事態です。
罪刑法定主義
「刑罰は法に従ってなされなければならない」という考え方です。日本国憲法第31条「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」という条文が、まさに罪刑法定主義とデュー・プロセス・オブ・ローを意味しています。「第一審有罪率99.9%」という異常事態が意味するのは、刑事訴訟における罪刑法定主義の形骸化です。日本では、検察官が「起訴する」と判断した時点で事実上の「有罪判決」です。裁判官ではなく、検察官によって「有罪判決」が出されているわけです。罪刑法定主義の形骸化が著しいと言わざるをえません。
刑事訴訟法
これらの問題点は主に刑事訴訟法の問題点でもあります。

どうでしょう? 「日本の司法制度はヤバい」と思いませんか? 今後は法務大臣、法務省、最高裁への見方が変わるかもしれませんね。あるいは、国政選挙や最高裁判所裁判官国民審査での投票行動が変わるかもしれませんね。そうなれば嬉しいです。

  1. クリストファー・ノーランのバットマン・シリーズについて言及します。バットマンが戦闘相手を積極的に「殺そう」とする描写は記憶していません。バットマンは私人として現行犯人を逮捕し、警察に引き渡そうとします。

  2. 立憲主義が近代憲法の大前提なので、立憲主義を軽視している自民党憲法草案は、「近代憲法」の体を成していません。「自民党 立憲主義」で検索すれば多数のウェブページを見つけられますが、例えば『8月7日(水) 自民党改憲草案と立憲主義(その1):五十嵐仁の転成仁語』『(同その2)』など。

  3. ミランダ警告」が為されていない場合の自白は、当該事件に関する公判上の証拠として用いる事ができないとされています。

  4. 上田秀明大使が国連の拷問禁止委員会で「シャラップ!」と発言した事件は、まさしくこの問題に関係しています。「日本の司法制度は中世的だ(近代的ではない)」と批判された文脈です。

  5. 世界各国の有罪率 - Yahoo!知恵袋』より。