『なぜ社会には情報アーキテクトが必要なのか?』という講演を2013年11月9日のDevLOVE現場甲子園2013でさせて頂きました。ありがとうございます。

なぜ社会には情報アーキテクトが必要なのか? from Hideto Ishibashi
講演時のスライドに含まれていた写真は削除しました。著作権上の配慮です。各スライドの最下部に小さな文字でURLを記載し、リンクしています。

Podcast(音声のみ)

以下、講演の骨子です。

問い

情報アーキテクトとは、そもそも何でしょうか?

「情報アーキテクト」というからには、「アーキテクト」の一種であると考えることができます。「ITアーキテクト」という仕事も同様で、「アーキテクト」の一種ですね。

以下「情報アーキテクト」と「ITアーキテクト」をほとんど区別しません。また、以下「情報アーキテクト」は「アーキテクト」である、とします。

ここで主題の「なぜ社会には情報アーキテクトが必要なのか?」を考えるうえで、より根本的な問いに立ち返ります。

つまり「なぜ社会にはアーキテクトが必要なのか?」を考えてみます。

アーキテクトの役割

まずはアーキテクトが20世紀に果たしてきた役割を振り返ってみましょう。近代化、機械化、産業化、都市化の時代に、人々の生活環境を形作ってきました。

アーキテクトは、「建物の図面をひく人」でしょうか?違います。

例えば、ル・コルビュジエは様々なコンセプトを作りました。「住宅は住むための機械である」「輝く都市」やアテネ憲章など。

ミース・ファン・デル・ローエは「神は細部に宿る」「レス・イズ・モア」と言った言葉を残しましたし、バルセロナ・パビリオンやレイクショア・ドライブ・アパートメントといった仕事をしました。

アーキテクトは〈環境〉を担ってきたのです。

情報アーキテクトの役割

情報アーキテクトは「画面遷移図をひく人」でしょうか?違います。情報アーキテクトも〈環境〉を担うのです。

アーキテクトの時代 情報アーキテクトの時代
近代化 情報
産業化 情報産業化
都市化 情報都市化
近代的生活環境 情報的生活環境

情報アーキテクトの始まり

こういう文脈で最初の情報アーキテクトを紹介します。リチャード・ソール・ワーマンです。

(なお、日本にワーマンを紹介したのは松岡正剛です。日本で情報アーキテクトについて考えるとき、松岡正剛の編集工学とあわせて考えるのは有意義です)

リチャード・S・ワーマンは(あの有名な)TEDカンファレンスを創設しました。そのコンセプトは有名な「広める価値のあるアイデア」 (Ideas worth spreading) です。

そんな「最初の情報アーキテクト」であるワーマンは、もともと「最後の巨匠」と呼ばれる建築家ルイス・カーンのもとで建築の仕事をしていました。「最初の情報アーキテクト」にとって、物質アーキテクチャと情報アーキテクチャは、ひとつのものだったのです。どちらも人間の生活環境を形成する人工物であるという点で。

ですから、「情報アーキテクトはアーキテクトである」という表現は比喩ではないのです。文字通りの意味なのです。

アーキテクトに必要なこと

アーキテクトは単なる「図面をひく人」ではありません。では、ここまで述べてきたような「アーキテクト的な仕事」をするためには、何が必要でしょうか?

まずは人文知や教養が大切だと思います。理系の工学的・道具的な知識だけではなく、「そもそも人間とは」「社会とは」「世界とは」といった問についての深い考えが必要です。

また、歴史的文脈を理解することも大事です。つまり、自分の仕事が歴史的にどういう位置づけなのかを考えること。自分の仕事がどういう未来を作ることにつながっているのかを考えること。

そして、批評的・公共的な言葉づかいも身につける必要があります。つまり人文系の言葉づかいです。逆に言うと、科学的・工学的な論理の言葉だけでは、社会的な問題について人々とコミュニケーションできません。

(例えば2011年3月の福島第一原発事故以降、私達は「ベクレル」「シーベルト」とか原子力発電所の構造についてやたらと詳しくなりましたが、本当に私達が知りたかったのはそういう科学的・工学的な知識だったのでしょうか?)

最後に言いたいこと。アーキテクトは社会のために働きます。クライアントや上司のためではありません。もちろん直接的にはそれらの雇い主のために働くのですが、あくまでの社会のためになること、社会を裏切らないことが前提です。社会を裏切ってまで雇用主に奉仕してはなりません。それがアーキテクトの職業倫理です。

アーキテクトという生き方

「アーキテクト」は生き方です。「会社に与えられる肩書」ではなく、自ら名乗るものです。転職しても、個人事業主になっても、アーキテクトはアーキテクトのままです。雇い主ではなく社会に奉仕するのですから、所属など関係ないのです。

メッセージ

このような理由で、社会には情報アーキテクトが必要です。

そして、情報アーキテクトになる人が増えれば幸いです。

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